ねぇ、アタシはいつだってアンタのことで頭がイッパイ。アンタの事が好きで好きでたまらない。
だからアタシはアンタが街でカワイイ女の子に声かけてようが、せっかく二人きりで買い物に行く日が任務でつぶれちゃったとしても、決してアンタを責めたりはしないわ。
そのセクシーなへそ出しとか、そのわけわかんない帽子とか、ちっちゃくてカワイイ『セックス・ピストルズ』も全部全部大好きよ。
ねぇ、だから。たまにはアンタから言ってくれてもいいじゃない。
言ってくれてもいいじゃない。『スキ』って。ねぇミスタ?



すき




「悪ぃ、この埋め合わせは必ずするから!な?」
そう言って、両手を目の前で合わせるアンタ。
これって何度目なのか、もう数える気も起きないし、二十回目を超えた時に既に数えるのをやめた。
「またなの?ミスタ。もう何回目なのかしら?」
なんだかんだ言ってもミスタは結構義理堅いと言うか、こう言うところきっちりしてるからちゃんと埋め合わせをしてくれる。
だからアタシは別に、本気で怒ってはいない。
いないけど…。
「って言うかよぉ…お前も行かなくていいのかよ?…これって任務だろ?」
ふとミスタが首を傾げた。
「いいのよ。ブチャラティはこれる奴だけ来いって言ってたじゃない。今日はアタシとの約束が先だったじゃない」
アタシがそう言い返すと、ミスタは困ったような顔をした。
「そうは言うけどよぉ、来れる奴だけって言ってだれもこなかったらどうするんだよ?ブチャラティ一人じゃさすがにヤバイだろ?」
ブチャラティのチームのメンバーはなんだかんだ言ってブチャラティの事、敬愛してるから誰も来ないなんて事はないと思うけど。
アタシは肩をすくめて言う。
「もういいわよ、ミスタ。いってらっしゃいよ。しっかりね」
そう言って手を振ると、ミスタはすまなそうな顔をしながらも、張り切って駆けて行く。
「絶対埋め合わせするぜ!約束する!」
その言葉、信じてもいいって分かってるからアタシは何も言わない。
でも。
でも、ちょっとだけ悔しいから、ミスタが背を向けた瞬間にスタンドを発動させて、拉致ってやった。
ミスタのスタンド、セックス・ピストルズのNo.1を。



「何テ事スンダヨォ〜!」
お気に入りのカフェテラスでアタシはカフェモカを飲みながら、No.1とお喋りをする。
「ミスタノトコロニ帰セ〜!」
「いいじゃない。ちょっとは付き合ってよ。恨むんならミスタを恨みなさい」
セックス・ピストルズを一人くらい拉致っても人数は5人だから、大丈夫。
4にはならないから大丈夫なの。
「ソンナニミスタトイタイナラ一緒ニ任務行ケバイイダロ〜?」
「馬鹿ね。他のみんながいたら意味ないじゃない。アタシはミスタと二人きりがいいの。女心の分からない子ね」
全くスタンドもその主も…。
「ねぇ、ミスタはアタシの事、あんまり好きじゃないのかなぁ…?」
告白してきたのはミスタの方なのに。
「オレガソンナ事知ッテルワケナイダロ〜?」
「ピッツァ食べる?」
「食ベル!!」
単純ね、No.1は。
「ねぇ、ミスタはアタシの事嫌いになっちゃったのかな?」
サラミの乗った一切れを与えながら、アタシはもう一度尋ねる。
「ソンナ事ナイゼ〜。ミスタハイツモナランチャトカオレ達ニノロケテルンダゼ」
「本当に?なんて言ってるの?アタシのサラミあげるわ」
さらにサラミを追加してやると、No.1は簡単に口を開いた。
「『チョ〜可愛いだろ?!』トカ『イカシてるよな、アイツ』ッテ言ッテルゼ。鼻ノ下伸バシチャッテサァ〜。アアイウ時ノミスタハカッコ悪イナァ…」
それは多分本当なんだろうと思う。
ミスタはアタシの事、ちゃんと好きでいてくれてるんだって、本当は分かってる。
分かってるけど、口に出してくれなきゃ不安じゃない。
ナランチャとかセックス・ピストルじゃなくて、アタシにちゃんと言って欲しい。
『好きだ』って。
なのに、ミスタったら好きだって言ってくれたのは告白の時だけ。
デートの時だって『今日もイカシてるな!』とか『相変わらずイイ女だな!』とか、そんなんばっかり。
まるでその辺を歩いている女の子をナンパするようなセリフばっかり。
言葉が欲しいわけじゃないけれど、たまには言って欲しい。
愛されてるんだって、自覚させて欲しい。
「ドウシタンダ?、イキナリ黙リ込ンデ。モットピッツァクレヨォ〜」
アタシがピッツァをもう一切れNo.1にあげたその時、ミスタの声がした。
!」
振り返ると、ミスタが走って来るところだった。
「もう任務終了?早かったのね」
「お前の為に早く終わらせて来たんだぜ」
ミスタってば、嬉しい事言ってくれるじゃない。
でもアタシが欲しいのは……アタシが今欲しいのは、もっと簡単な言葉。
簡単な一言。
「それにお前がNo.1連れてっちまうからよぉ…」
「ミスタのおバカさん」
アタシはミスタの言葉を遮って席を立った。
分かってるわ。貴方達がブチャラティを敬愛してやまないって事くらい。
アタシだって彼の為に働くのはやぶさかじゃないわ。
でも、たまにはアタシの事、優先してよ。
好きだよって言って、抱きしめてよ。
一日中一緒にいて、ミラノの街を散歩して、何気ない会話して、明日も変わらない一日が来るようにお祈りして、楽しく過ごせる事に感謝してみたりしたいじゃない。
「もういいわ。No.1、そのピッツァ全部あげる。おごりよ」
アタシはお金を払って、店を出た。
「おい!どうしたんだよ!」
ミスタのうろたえたような声が後ろから聞こえてきたけど、振り返ってなんかあげないわ。
、怒ッチマッタヨ〜ミスタガ怒ラセタンダヨ〜」
違うわNo.1、別にアタシ怒っているわけじゃない。
なんだか寂しいだけ。
アタシはこんなにもミスタの事好きなのに。
そして分からないだけ。
言葉が全てじゃないって分かっているのに、ミスタの言葉を欲しがっている自分自身が。
アタシは頭の中がぐちゃぐちゃで、ワケが分からなくって走り出した。
!!」
背後でミスタが叫んだけど、聞こえないふりをしてアタシは走り続けた。



じゃないか」
声をかけられてアタシはようやく立ち止まった。
「あ、ブチャラティ…それにアバッキオも」
「オマケみたいな言い方するなよ。それよりミスタの奴はどうしたんだ?」
「あー…うん」
アバッキオの問いに返事は出来なくて、アタシはブチャラティに話をそらせた。
「今日は行けなくてごめんなさい。怒ってる?」
アタシだってブチャラティの事は敬愛してる。
ミスタやアバッキオ程じゃないけど、彼がいなきゃこの街で生きていくことなんて出来なかったから。
「いや、そんな事くらいで怒ったりはしないさ。それに今日はたいした仕事じゃなかったからな」
ブチャラティは優しく微笑んでくれる。本当に優しいんだ、ブチャラティは。
「なんだ?お前、ミスタと喧嘩でもしたのか?」
アバッキオはこういう事、鋭い。
「喧嘩なんかしてないわ」
そう言ってそっぽを向くと、突然アバッキオの腕が肩に回ってきた。
「ミスタなんかやめてオレと付き合わないか?」
アバッキオの顔が間近にあって、アタシは何故か赤くなってしまう。
「アバッキオ、悪ふざけが過ぎるぞ」
ブチャラティがたしなめるけど、アタシはそれもいいかも知れないなんてボンヤリと考えていた。
アバッキオなら、アタシの欲しい言葉を欲しい時にちゃんとくれるだろう。
ミスタは、ああ見えて意外と照れ屋さんだからあんまり言ってくれないけど、アバッキオはそういう事、気にしない人だから。
「ふざけちゃあいないぜ、ブチャラティ。オレは真面目に言ってるんだ。なぁ。ミスタは鈍感で嫌になっちまったんだろう?」
「何してんだよ、アバッキオ」
そこに、ミスタの声が響く。
「いくらアバッキオでも許せねぇぜ、オレの女に手ぇ出すのはよ」
予想外の事が一気に起こりすぎて、アタシは反応することも出来ずに固まってしまった。
そんな事よりミスタの言葉が頭の中にこだましていた。
ねぇミスタ、アンタ今なんて言ったの?アタシの事、何て言った?
意外にもあっさりと引かれたアバッキオの腕。アバッキオを見やると、彼はニヤリと笑って言った。
「言えるんじゃねぇか、そういう事」
「え?」
「はぁ?」
状況が飲み込めないアタシとミスタと違って、ブチャラティは全て分かっているようで、『邪魔者は消えるぜ』そう言ってアバッキオを呼んだ。
「本当にミスタと別れたらオレのとこに来いよ」
そう軽口を叩くアバッキオに『さっさと消えろ!』と怒鳴ったミスタが、アタシのところにやってきて。
そうしてアタシの手を握る。
「なんで怒ってんだよ、
「別に怒ってなんかないわ」
アタシってばNo.1より単純だったみたい。
さっきまで胸の中でモヤモヤしていたものが、ミスタの言葉で一気に晴れてしまった。
「じゃあ何で逃げるんだよ。傷つくぜ〜?好きな女にいきなり逃げられるとよぉ〜」
「ミスタのおバカさん」
悔しいからミスタの鼻を摘んでやった。
ミスタってば、なんでこんな時ばっかりそう言う事言うのかしら。
言おうと思えば言えるんじゃないの。『オレの女』とか『好きな女』とか。
アタシを喜ばせる言葉、アンタはちゃんと分かってるのね。
「何なんだよ…お前…。今日おかしいぜ?」
アタシがおかしくなるのはアンタのせいよミスタ。
ワケが分からないといった感じのミスタにアタシは思いっきり抱きついてみた。
困ったような嬉しそうな中途半端な表情で、アンタはそれでもアタシをちゃんと抱きしめてくれるから。
だからアタシは…。
「ねぇミスタ、アタシミスタが大好きよ。ミスタはアタシの事好き?」
「聞くなよそんな事。好きに決まってんだろ?」
それからミスタがアタシの耳元で囁いた事、その言葉はアタシの顔を真っ赤にさせたけど。
だけどとても嬉しかったから。
だからアタシは微笑んだ。
「本当に大好きよミスタ」



20100621加筆修正

お題は[ドリーマーに100のお題]様よりお借りしました。*現在リンク切れです