その頃のと言えば、マルコとそういう仲になって既に5年はたっていて。
そうは言っても熟年カップルのように落ち着いた雰囲気を出しているわけではなく、相変わらず帰ってくれば丸一日は彼の部屋から出てこないと。
そんな生活を変わらず続けているものだから、新入りが入ってきたところで心変わりの心配などは全く無かったのだが。



アンタあの子のなんなのさ!




「お、ナースじゃねぇ女がいる!」
エースがそう声をあげたので、イゾウは慌ててその肩を掴んで彼を引き止めた。
「エース、あれはマルコの女だ、手を出そうってんならやめときな」
二人の視線の先には十数人の女の集団がある。二ヶ月ぶりの0番隊の凱旋だった。
「どれ?どれがマルコの女?まさかアレ全部とかいわねぇよなぁ?」
女と見ればとりあえず飛びつこうと言うのだから若さとは恐ろしいものだとイゾウは溜息をつく。
自分にもこんな時期があっただろうか。忘れてしまった。
それよりも今は彼に釘を刺しておく事だ。あのマルコがベタ惚れな彼女がエースに誑かされたりなどしたら、回りへのとばっちりが。考えただけでうんざりだ。
「逆に聞くが、エースはあの中なら誰がいい?」
イゾウに尋ねられてエースは迷う事なく。
「おれはやっぱあの赤い髪の女かな!」
よりにもよってタブーに手を出すこたぁないだろうと、イゾウは再び深い溜息を。
「エース、命が惜しけりゃあの女の事は忘れるんだね」
「なんだアレがマルコの女か。滅茶苦茶いい女だなぁ〜」
分かったのか分かっていないのか、そんな事を言いながらエースはいつの間にかイゾウの手から逃れてそちらへ足を進めていた。
ああ、おれは忠告はしたからね。とイゾウは肩を竦めて船室へと逃げていく。
エースは軽い足取りで0番隊の輪に近づき、の前に立っておもむろに一言。
「アンタ、マルコをやめておれにしないか?」
二カッと笑みを浮かべた男に、当のはもちろん、0番隊の女達は呆気に取られて彼を見つめる。
「えぇっと、貴方は?」
見知らぬ男の突然の出現にさすがの0番隊隊長も一瞬動きを封じられたが、すぐに気を取り直して尋ねた。
「おれエースってんだ。新しくここに厄介になる事になった。よろしくな」
眩しすぎる笑顔で言うものだから、彼の第一声がとんでもないものだった事をつい忘れてしまう。
「ああ、私は。0番隊の隊長をしているの。よろしくね」
差し出されたエースの手を握り握手を交わして自己紹介。
そこまでは良かったのだが。
「で、アンタおれのモンになる気はねぇか?」
彼女の手を握った手に逃げられないように力を込めて、再び先程の会話を蒸し返した。
突然なんなんだろうかこの若者は。と自分だってまだ若者と呼ばれてもよい年齢であるのを忘れ、は頭痛を感じて空いている方の手でこめかみを押さえた。
丁度その時甲板に荒々しい足音が響く。それは足早にこちらにやってきたかと思うと、繋がれていた二人の手を掴んで無理矢理に離させ。
「てめぇエース、なに堂々と人の女口説いてくれてんだよい」
イゾウがマルコに知らせたのだろう。思ったよりも早い登場にエースはちぇ、と腕を頭の後ろで組んだ。
そのやり取りを見ていた0番隊の他の女達もくすくす笑っている。
「コイツはお前にゃ勿体無ェよい」
マルコはそう言って彼女の手を引いて船室へ向かう。
「マルコ、ちょっと待って」
ぐいぐいとその手を引くマルコを制して手を離させたが、ととと、とエースの元へ駆けてきて。
「エース、マルコはああ見えて嫉妬深いの。だから、あまり煽らないで頂戴ね?とばっちりが来るのはこっちなのよ」
そう言って笑みを投げかけるとあっさりとエースから視線を外してマルコの下へと戻って行った。
船室に下りる前に見せ付けるかのようにキスを交わす二人を見て、エースはもう一度ちぇ、と舌を鳴らした。



20100729