その言葉は、思っていたよりも重く深く、胸の奥にずしりと落ち込んできたのである。



Believe me!




「お前なんか、嫌いだよい」
その言葉が、嘘だと言うのはわかっていた。
昨夜から、船全体がどことなく浮ついた空気に包まれていて、一体何事なのだろうと思って見ればなんの事はない。
壁にかけられたカレンダーが何の日であるのかをちゃんと示していた。
だから、誰からどんな言葉を投げられようとも揺らぐ事など無いと思っていたのだが。
「下手な嘘ね、マルコ」
そう返せば彼も小さく笑って肩を竦めたものだから、も同じように笑みを返して踵を返した。
今日はこんな感じで、絶えず偽りの言葉を投げかけられるのだろう。
部屋に戻る間にも、『今日は海王類が一日静かになる日だ』とか『オヤジの髭は実は着脱可能なんだ!』とかどうしようも無い言葉が聞こえてくるのだから、手に負えない。
自室に戻り、パタリと扉を閉めたところで、ぶるりと身体が震えた。
マルコのあの言葉は、嘘だと分かっているのだが。
頭では理解している筈なのに、いつかそれが本当になる時が来るのかも知れないと思うと心臓が激しく早鐘を打ち始める。
いつか。
彼が自分に飽きてしまう日が来たとしたら。
「っ…!」
それを思うと声にならない声が漏れ、目の奥がじんわりと熱くなってくる。
考えすぎだと分かってはいても尚。
微かに睫が震えたその瞬間。
。いるんだろい?」
ドアがノックされ、返事も待たずにマルコが扉を開けて部屋へと入って来たのだ。
「…!?」
そうしてそのままその腕に抱きこまれてしまえば、は急な展開について行けずに目を白黒させるばかり。
「マルコ、どうしたの…?」
「悪かった。お前を傷つけるつもりは無かったんだよい。慣れねェ事はするもんじゃねえない」
「そんな風に、見えた?」
嘘だと分かっていたと告げても、を抱き締めるマルコの腕が解かれる様子も無い。
「見えたよい。少なくとも、おれにはな」
確かにその言葉に酷く揺らいだのは確かなのだが、偽りの言葉だと分かっていたから表に出る事はないと思っていたし、事実、殆どそれは誰にも悟られなかった筈なのに。
マルコには敵わないと思うと同時に、こうして改めて先程の言葉を否定され、酷く安心した。
「お前を嫌いになるなんて事、あるわけねえだろい」
「…マルコ、もし私に飽きたなら、4月1日以外の日に言ってね」
ほんの少し、仕返しの意味を込めて意地悪にそう言ってやると、背中に回された腕に更に力が込められる。
「そんな日は来ねェよい」
そうして。
「信じられねェってんなら、その身にイヤって程教えてやるよい」
彼女の背から離れていったマルコの片腕が、後ろ手に部屋の鍵を閉めるカチリと言う音が、の耳に届いたのである。



20110401