不死鳥に飽きたらいつでも帰ってくるんだぞ!と。
そんな声すら聞こえる気がする。



Come back! To me!




ロックスターと言う名の、赤髪からの使いが来たのは午後の事だった。
その日の海はとても穏やかで、天気も良かったものだから白ひげも甲板に出ていた。もちろんその回りにはいつものようにナース達が数多と控えてはいたが。
それでも酒を片手にその使いを迎える白ひげはいつもと何も変わらない。
仮にも赤髪からの使いであると言う男を迎えて、隊長達も甲板に集まっていた。そこにはもちろん、の姿もある。
あの日、サッチが殺され、エースが船を飛び出してしまってから、達0番隊は外の任務に行く事が少なくなった。
今は彼女達を手元から離したくないと、マルコにだけ打ち明けた白ひげの言葉にほっと胸を撫で下ろしたのは確かだ。
マルコやビスタ、ジョズ達と同じくらいこの白ひげの船に乗っていながら、微塵もその野心を見せる事のなかったティーチが何を企みどこに身を潜めているか分からない今、0番隊を危険に晒したくないと言う白ひげの親心なのだろう。
それはそうと、赤髪からの使いが持ってきた手紙を破り捨ててしまった白ひげとロックスターとの話はいつの間にか終わっていたらしい。
帰れと無碍もなく言われた男はもう一つ用事があるのだと、集まっていた隊長達に視線を向けた。
、と言うのはどいつだ?」
ロックスターを差し向けた赤髪の事を『良く知る』は予測していたのだろうか、微かに肩を揺らした。そんな彼女を差し置いて前に進み出たのはマルコだ。
に何か用かよい」
彼女と赤髪の関係を良く知るマルコも、きっとロクでもない事を言われて来たのだろうと眉を潜めている。
「死んでも連れて帰れって言われてきたんだ。おれはってヤツを連れて帰らなきゃいけねェ」
大真面目に言う男に、マルコは面白そうにニヤリとした笑みを浮かべ、は大きな溜息をついた。
隊長達が肩を揺らして笑い、白ひげも声を上げて笑っている。周りのナース達もクスクスと声を漏らす。
「そうしたらお前、死ぬしかねェなあ」
イゾウがおかしくて仕方ないといった顔で声をかけると微かにロックスターの顔が引き攣る。
「おいハナッたれ、おめェが何者か何も聞かされてねェのか」
赤髪も意地の悪いヤツだと白ひげがぼやく。
首を横に振ったロックスターに向かってマルコが一歩踏み出せば、威圧されたロックスターが一歩下がった。
はなァ、赤髪の妹だよい」
マルコが言うと背後から白ひげが更に言葉を掛ける。
「ついでにそいつの女だ、どうしても連れて行きてェってんならマルコを倒していかねェと無理だぜ」
グララララと笑った白ひげの言葉に、ロックスターは目を見開いて目の前に迫るマルコを見やる。
「お頭の妹!?…でアンタの女だと…!?」
その事実にロックスターは驚くばかり。
「そうだよい。どうする、おれとやるかい?」
彼女を連れて行くつもりなら容赦はしないとでも言うように、片手を青い炎に変えて威嚇するマルコを制止したのは当のだった。
「もうやめてあげなさいよ。かわいそうだわ」
軽い足取りで進み出てきた女に、ロックスターはどことなく己の頭であるシャンクスの面影を感じた。
「あなたももう帰りなさい。私を連れて帰れない事なんて、兄さんは分かっているのよ」
限りなく0に近い可能性で、あわよくば連れて帰れたらいいと思っているだけなのだと知らされたロックスターの顔が、少しだけ安堵の表情を見せた。
女一人を連れ帰る為だけに白ひげ海賊団の隊長とやり合うなんて、割に合わないと思っていたのだろう。
小船に乗ってモビーディックを後にするロックスターを見送りながらマルコが溜息をついた。
「お前の兄貴も全く諦めねェな…」
どこまで本気なのかは分からないが、機会があれば妹の身を己の手元に戻そうとしている。
それは単に肉親を心配しているだけなのか、彼女がいつの間にか知らない男のモノになってしまったのが気に入らないのか。
間違いなく後者であるとマルコは思っているが彼女の前ではそれは言わないでいる。仮にも彼女の兄なのだ。
「本当に昔から変わらないわ…兄さんは」
小さくなった小船を見送っても思わず溜息をつく。
前にどこかの島で偶然に顔を合わせた時に己の決意は告げたはずなのに、機会があれば妹の身柄を手元に戻そうとしてくるその抜け目なさ。そしてそれが本気なのか冗談なのか。
全く読めないところは昔から何一つ変わっていない。
「近い内に本人が来るかも知れねェなァ」
そうぼやいた白ひげの言葉が本当になるだろうと、隊長達は確信していた。
「まァ、何にしたって今更お前を帰してやる気はねェよい」
彼女だけに聞こえるようにそう零したマルコに、はくすぐったそうな笑みを向ける。



電伝虫が鳴り、白ひげの元に出向いていたはずのロックスターからの知らせが入る。
届けるはずの手紙は目も通されず破かれてしまった事と奪還を命じていた妹の身柄が思った通り戻ってくる事の無い事を知り、やはり自らが出向くしかないか、と腰を上げたシャンクスにヤソップが声を掛ける。
「お頭、一応聞くが白ひげと話しをしに行くんだよな?」
「何言ってんだ!を取り戻しに行くに決まってるだろう!」
最早冗談なのか本気なのかも分からないその言葉に、ヤソップはベンと顔を見合わせ深い溜息をついた。



20101118