※捏造バリバリです。それでも構わない方はスクロール


























貴方の未来を
例えばこの手で
決めてあげる



俺の未来はどこへ行く




完膚なきまでに叩きのめした敵船から戦利品を巻き上げて検分していれば、サッチが声を上げた。
面白いものを見つけたと言うその手には特徴的な果実が。
一目で悪魔の実だと、誰もが理解する。
基本的に戦利品は一度オヤジに献上し、それからクルー達に分配される事になっているが、この悪魔の実だけは別だった。
始めに見つけた者の物。それがルールだ。そもそもオヤジは既に悪魔の実の能力者だからこの実は彼には必要ないのだから。
だから。
悪魔の実の中でも殊更に変わった形をしたその実はサッチの物となる。
「食べてみないんですかい?」
一通り戦利品を分別した後で、甲板に残って手にした実を眺めていたサッチにクルーが声を掛ける。
「ん〜」
煮え切らない返事をするサッチの隣に一人の女が立っている。
「不味いから食べたくないんですって。4番隊隊長ともあろう男が!」
一息に食べてしまえばいいのにと言うその女はもちろんサッチが港のどの女よりも惚れ込んだ女、だ。
サッチに変わって返事をした女の言葉にクルーは声を上げて笑う。
「バカ、それだけじゃねェよ!確かに能力者は強えかも知れねェけどよ…」
泳げなくなるのはなァと更にぼやく彼には呆れた表情を見せた。
今は冬島の海域でとてもじゃないが海で泳ごうなんて気になる筈もないのに、そんな事を心配しているサッチが可笑しい。
やれやれと肩を竦めるの横で、サッチはいつまでも煮えきらずに手にした果実を眺めやっていた。



夜になって彼の部屋を訪ねてみれば、机の上になんとも無造作に悪魔の実が放られていて、まだ口にしていなかったのかとは小さく溜息をついた。
「どうした?。夜這いか?」
なんてニヤリと笑みを浮かべたサッチの顔が、彼女の手にしている物を目にして強張る。
「おい、何だそんなモン持ち出してきて…!」
その白い手に握られているのはぺティナイフ。
剥き出しのままにキッチンから持ち出して来たのだろうか。なんとも物騒な事だ。
「サッチ…」
名前を呼んだ彼女は机の上の悪魔の実を掴むとベッドに転がっていたサッチの上へと跨って来た。
「おいおい穏やかじゃねェな」
手にした悪魔の実とナイフさえなければとてもおいしい状況なのにと、サッチがそんな事を考えているとも知らず、はその口元に艶やかな笑みを浮かべた。
極上の笑みを浮かべた彼女の手はするすると動き、悪魔の実を一切れ切り出していた。
まさか、とサッチの額を嫌な汗が伝う。
「サッチ」
浮かべた笑みの意味を知ったサッチがフルフルと首を横に振る。
「いやいやいやいや、待てって!」
その口元に容赦無く一口大に切り取られた実が押し付けられる。
食べたくないわけではない。ただ、色々と考えると少しだけ躊躇われるのだ。
せめて、もう少し悩ませて欲しいと言うのに。
「食・べ・て」
わざと官能的に彼女が言う。それが悪魔の実でなければいくらでも食べてやると言うのに!
半ば意地になって口を開こうとしないサッチと、何故か頑なにそれを食べさせようとするの無言の攻防は暫く続き。
「サッチ」
もう一度彼女がその名を柔らかく呼んだ。
その顔には極上の笑みが浮かべられているが目が少しも笑ってはいない。
「お前、なんでそんなにおれにそれを食べさせたいわけ?」
と尋ねる為に開いたサッチの口に容赦なく悪魔の実が押し込まれた。
仕方がないと観念してそれを咀嚼し飲み込んだが。
「うえええええ。マジマズイ。ありえねェ…!」
間違いなくこの世のどんな食べ物よりも不味いと断言できそうな味にサッチは顔を歪めた。
それを飲み込んだ彼の喉仏が大きく上下したのを確認したはどこかほっとした表情でサッチを見つめ、更に一切れをサッチの口へと運ぶ。
一口食べてしまえばもう諦めもついたと言うもので、大人しくサッチはの手から悪魔の実を食べ続けた。
「ちょ…もう自分で食べるからそれよこせ」
さらに三切れ程口にしたところでサッチは手を伸ばしてから悪魔の実を取り上げ、一気に口に詰め込んだ。
言葉にしがたい不味さを何度も味わうよりはさっさと終わらせてしまおうとなるべく味に気付かない振りをして噛み砕く。
「お前、よくこんなの食べたな」
頭痛すらして来たような気がして、ぐったりとベッドに身を沈める。
「もう忘れちゃったわ。どんなに不味かったかなんて」
記憶に留めておくのもイヤだもの、と告げた彼女の手が優しくサッチの頭を撫でた。
それから彼女の顔が近づき、柔らかく唇が重ねられる。
先程からの彼女の意外な行動にサッチが驚いているとがにっこりと微笑んだ。
「お口直しね」
「全然足りねェよ」
ようやく笑みを浮かべる余裕のできたサッチは腕を伸ばして己の上にある彼女の身体を更に引き寄せ、その唇を貪った。



サッチの部屋を後にしたは拝借してきたぺティナイフを戻しにキッチンへと向かう。
その途中で。
「…ティーチ」
暗がりから姿を見せた男に鋭い視線を向けた。
名前を呼ばれた男は彼女がやってきた廊下の方に目を向け、彼が目指していた部屋から彼女が来た事を確信した。
「もう食べさせちゃったわよ」
「ゼハハハハ。喰えねェ女だな、
笑い声を上げてはいたがティーチの瞳は笑ってはいなかった。
その瞳にギラつく輝きは、昼間、サッチが甲板で悪魔の実を手にした時にほんの僅かに見せたそれと同じ。
野望と欲望に満ちた瞳だ。
はそれを、ティーチがひたすらに隠していたその野心に気付いてしまったのだ。
だから、半ば強制的に悪魔の実をサッチに食べさせた。
ティーチに奪われてしまう前に。間違いが起こってしまう前に。
「残念だったわね。そんなに欲しい実だったの?」
フン、と鼻を鳴らしたの手を、ティーチが掴む。ギリギリと力を込めながらその身を壁に押し付けた。
「とんだ誤算だぜ。オメェなんかにおれの野心を嗅ぎ付けられちまうなんてなァ。オメェはあの実がどれだけ貴重か分かっちゃいねェ!」
それを手にする為だけに己の野心を押し殺してこの船に乗っていた。それを思うとティーチの心は激しくざわつく。
「お陰様でおれの計画は全て狂っちまった。今、ここで殺してやりてェくらいだ」
彼女の手を捕らえていない方の手がその細首にかけられる。
「オメェが能力を発動させるのが先か、おれがオメェの首を握り潰すのが先か、試してみるか?」
己の野望の為に必要不可欠としていた筈の一手を目の前の女にあっけなく潰されたティーチの怒りは、見た目以上に彼の中で渦巻いていた。
口を開きかけた彼女を見て、ティーチはその手に力を込めかけたが。
「おい、何やってんだティーチ!」
廊下の奥から姿を見せた男に小さく舌打ちをしたティーチが両の手を解放する。
「ゼハハハ。命拾いしたな、
小さな呟きを残して、ティーチは素早く廊下の奥へと姿を消してしまった。
「何してたんだ?大丈夫か?」
ティーチとは逆の方向から姿を見せたサッチには柔らかく微笑んで見せる。
「何でもないの。大丈夫よ」
だが彼女の首に、手に確かにティーチが手をかけていた気がして拒む彼女を黙らせて無理矢理その手と首を確認すれば。
「痕ついてるぞ。本当に大丈夫なのか?」
思った以上に強い力で掴まれていたのか、特に手首にはくっきりとティーチの手の痕が残っている。
「やぁね、他の男の痕なんて」
茶化すように鼻で笑った彼女に、サッチもそれ以上を追求するのは止めたが、何か思うところがあるのかティーチが消えて行った廊下に一度視線を投げた。
だが直ぐに彼女の方へ向き直りその手に握られたままのぺティナイフを取り上げる。
「いつまでも物騒なモン握ってんなよ。早く返してきちまおうぜ」
そして部屋でゆっくり過ごそうと、先に立って食堂へと向かうサッチの後に続きながらは小さく呟いた。
「サッチが無事なら、あたしは大丈夫」
自分では見えなかったが首につけられたティーチの手の痕を一度撫で、は目の前の愛しい男の背中を見つめた。
その身が、彼が無事で良かったと。
彼の未来はきっと、繋がったと。



20101122