あれほど嫌だと感じていたその行動も、
彼相手にならなんとか我慢できると気付いたその日から
彼だけに触れてもらえるのが嬉しくなったのだ



その、意味を。




「なァ、のヤツって何であんな額触られるの嫌がるんだよい?」
問いかけられたサッチはそれはそれは驚いた顔で。目玉が転がり落ちてしまうのではないだろうかと言うくらい目を見開いてその質問を投げかけたマルコを見やった。
「なんだよい、その顔は」
「なんだってそりゃあ、驚くだろうがよ、そんな質問されたらよ」
そんな答えが返ってきたので、マルコはそんなに己のした質問がおかしかっただろうかと考えた。
白ひげ海賊団の一人として、仲間として同じ船に乗る女がいる。
物心ついた時から戦う事が大好きだったと言うトンでもない女だ。
そんな女だから海に飛び出して海賊になったとしても、白ひげの海賊船に乗っていたとしても別に不思議はありはしない。
それよりも不思議なのは先程から口にしている彼女の一つの癖のようなものについてだ。
マルコは彼女とそれなりに仲も良く(この海賊団で仲間内で仲が悪いと言うのはそうそうないのだが)、時々じゃれあうように彼女の額、生え際の辺りを撫でたりするのだが、そんな時の彼女は決まって何かを堪えているような、酷く辛いといった感じで顔をしかめているのだ。
「マルコ、お前アイツの能力の事は知ってるんだよな?」
サッチが本当に信じられないと言った表情で聞き返してくる。
彼女を拾ったのはこの自分だ。知らないわけがない。自分と同じ動物(ゾオン)系の中でもさらに希少な『幻獣種』キリンの能力を宿している。
キリンと言っても首の長いアレではなく、もちろん幻獣と言うからには神話などに良く出てくる麒麟の方である。
そんな能力の彼女だが、それが額を触られるのを嫌う事となんの関係があるんだろうか。
「ほんっとうに知らねぇのかよ、マルコ。こりゃ意外だな」
「いいから知ってるんなら話せよい」
お前の驚いた顔にゃあもう飽きたよい、とマルコはサッチに話の続きを促した。
「アイツ、麒麟だろう。額に角が生えるじゃねぇか」
そう言われてマルコは思い出す。動物系の能力者がもれなく獣に姿を変える、その事。彼女の変化した姿。鹿にも似たその姿。鱗に覆われた皮膚と美しい鬣、それに額に立つ一本の角。
燃えるよう赤い鬣と、光の具合によって珊瑚のように紅く美しく光を反射する鱗、全体的に赤い色をしたその姿は『炎駒(えんく)』と呼ぶ事もあるのだと言う。
「それがなんだよい」
「麒麟の角ってのは力を司るところなんだってよ。弱点にもなるらしいぜ。折れたりしたらもちろんアウトだが触られるのも結構堪えるらしい」
サッチの言葉に今度はマルコの方が目を丸くした。
「なんだって?」
触られるのも堪えるだと?
「そんな事、聞いた事ねえよい」
それどころか触れるその手を払いのけられた事だってただの一度もない。
「それはそれは…」
サッチはニヤニヤとした笑みを浮かべ始める。
「知ってるか?アイツオヤジに頭撫でられそうになった時ですらさり気なく身をかわしたんだぜ」
その言葉を聞いた途端にマルコは甲板を蹴立てて走り出す。
どうしたって、その真意を聞き出さなくては気が済まない。
「アイツらこれでようやくくっつくのかねー」
マルコの背を見送りながらサッチが楽しそうに呟いた。



。こんなところにいたのかよい」
直ぐに見つけられると思ったのに、こんな時に限って彼女は珍しい場所にいた。お陰様で二時間も彼女を探して船の中を歩き回ってしまった。
「あら、マルコ。もう夕飯?」
全く見当違いの返事をよこしたこの女は船のナース達と一緒にお茶を飲んでいた。
女である前に一人の隊長として振舞っている彼女が、ナース達とつるんでいるのはなかなか珍しい。
だが今はそんな事はどうでも良い。
「ちょっと顔貸せよい」
「あら、あたしシメられちゃうのかしら?」
笑いながらそれでも大人しく椅子から腰を上げた彼女の言葉にナース達もくすりと笑みを零す。
「また一緒にお茶しましょうね、
見送るナース達にひらりと手を振って、彼女はマルコについて甲板に上がった。
船首に向かい、人気の少ないところで立ち止まると、おもむろにマルコは彼女に手を伸ばす。
それに気付いたが、いつものように頭を、額を撫でられるのだと気付いて思わず眉をしかめ唇を噛み締めたのを、マルコはしっかりと確認した。
「お前、額撫でられるの堪えるって聞いたよい」
伸ばされた手は額を撫でる事なく、代わりにそっと頬を撫でていった。
マルコの言葉にぴくり、と身体を反応させる。
「どういう事だか説明しろい」
「どうもこうも、そのまんまだけど。弱点なのよ、本来角があるべき場所は」
そう答えるとマルコは首を横に振った。
「違う。おれが聞きたいのはそういう事じゃねェよい。何で今までおれに大人しく撫でられてたのかって事だよい」
苦手なら、嫌ならそうはっきりと言ってくれれば。彼女がしんどいと知っていたらこんな事、しなかったのに。
あー、とかなんとか声を出して言い淀む彼女に追い討ちをかける。
「オヤジにすら、触れさせてないんだってな」
それなのに、何故。
何故自分にだけ触れる事を許したのか。
「もう、言わなくても判ってるんでしょう?」
目をそらす彼女の顎をつかみ視線を合わせる。さり気なく腰に腕を回し逃げる事も許さない。
「ちゃんとお前の口から聞きたいんだよい」
そう言ってみれば彼女の頬がほんの僅かに赤くなった気がした。
「…マルコには、触れてもらいたい、から…よ」
彼だけに。弱点とも言えるその場所を許した。
「お前、それは反則だろうがよい」
彼女の唇に噛み付くように口付けた。
「言えって言ったのはマルコじゃないの…」
唇を解放すると更に顔を赤くした彼女が呟くように言い、マルコは堪らず彼女を腕の中に閉じ込める。
、おれの女になれよい」
「オヤジが許してくれたらね」
照れ隠しに言った言葉に、マルコはもし『オヤジ』の許しが得られなかったら彼女をさらって飛んでいってしまおうか、と本気で考えた。



ヒロインの能力は麒麟ですが、麒麟自体の設定は十二●記とMHとあとwik●iが混ざっていますw
20100726