濃い色のサングラスに隠された視線を、
それでも真正面から受け止める。
そんな彼女の瞳も強い色を宿していて、
お互いその視線に捕らわれているのだと知る。



その視線と




ドフラミンゴが上機嫌で船に戻ってきた。
取り立てて何か物珍しい物があるわけでもないこの島に上陸する度に、何をしているのかは知らないが、機嫌の良さそうな悪そうな微妙な表情で戻ってくる事の多かった彼がこうして上機嫌で戻ってくると言うのは珍しい――むしろ初めての事だ。
だが、その後ろから深い緑色のドレスを着た女が姿を見せた時に、大概の者はドフラミンゴの上機嫌の理由と、彼がこの島に通い詰めていた理由を知った。
「その方は?」
主はもちろんドフラミンゴだったが、この船の全てを任されているキースと言う名の男が尋ねる。
「おれの女さ。いい女だろう?」
そう言ってドフラミンゴはフフフ、と笑った。
船に商売女を連れ込む事はあってもそれを彼の女だと紹介された事はなく、キースは彼女が主にとって今までの女達とは違うのだと悟った。
主の機嫌を損ねるような事はしたくない。彼女にも主と同等の待遇をしなければならないのだろうと、彼は手下を呼び寄せる。
「丁重に扱えよ。女王様は気難しいぜ」
おれの部屋に通しておけと指示を与え、ドフラミンゴは彼女を振り返る。
「直ぐに船を出す。この島に未練があるなら今のうちだ」
「私をここまで引き摺り出しておいて、今更どの口がそんな事を言うのかしら」
お望みなら船を降りるわ、と言うとドフラミンゴの笑みが更に深くなる。
「お互い心にもない事を言うのはやめようぜ。なァ、
するりと頬を撫でられるのを彼女は嫌がりもしなかった。
彼女をここまで連れてくるまでの事を思えば大きな進歩だ。
「指示を出したら直ぐに行く。部屋で待ってろ」
そう言われたはキースの部下の先導で彼の部屋へと先に姿を消した。
「あれが『不死王』ですか」
前々から彼女の話だけは耳にしていたキースは彼女の背中を見つめながら言う。
「ああ。ようやく引き摺り出してやったぜ」
お気に入りがまた一つ増えた、と彼は笑った。
「あいつも能力者だ。海には気をつけてやれ」
「かしこまりました」
それから二人はこれからの進路と各方面からの報告を確認する為に船長室へと向かった。



広く、豪奢な家具の並べられた自室に戻れば、彼女は窓から外を眺めていた。
そこから見えるあの島は、だいぶ小さくなろうとしている。
「恋しくなったか?」
声をかければまるでたった今その存在に気付いたとでも言うようにゆっくりと振り返る。
「そのような感情を持つくらいなら貴方について来たりなどしないわ」
ただ、見ていただけ。と彼女は再び窓の外に視線を移す。
「フッフッフ。そんな態度を取るんじゃねェよ、。おれがてめェを浚ったみてェじゃないか」
「あら、違うの?」
速攻で帰ってきた言葉にドフラミンゴは声を上げて笑った。
「敵わねェな、おい。こっち来い」
彼女には力を向けても無駄だと分かっているから、ドフラミンゴはそう声をかけた。
それでもその言葉に逆らう事なく彼の方へと歩みを向けた彼女にドフラミンゴは満足そうな笑みを浮かべる。
触れる事はおろか側に近づく事すら許されなかった時の事を思えば、この進展は十分すぎる程に彼を上機嫌にさせた。
「愛してやると言っただろう。お前はもうおれの女だ。つれねェ態度を取るなよ」
傷付くだろう、と言いながらも顔には笑みが浮かんでいるのだから一体どこまでが本気なのか分かりもしない。そもそもこの男が女につれなくされて傷付くところなど想像もつかない。
初めて会った時から変わらず喰えない男だ、と思いながらもその足はドフラミンゴの元へ来て止まる。
腕を掴まれそのまま強い力で引かれればが抵抗できるはずもなく、その身はあっさりと彼の膝の間に引き込まれる。
バランスを崩してドフラミンゴの胸に縋り付いた彼女の顎に手をかけ上向かせると、その唇にキスを一つ。

その名を呼んでやれば、無表情を貫いていたその顔が微かに綻びる。
長い時を殆ど一人で過ごして来た彼女が、その名を呼ばれる事に喜びを感じているのを、ドフラミンゴは気付いていた。
同じように、見返りの無い愛を捧げ続けていた彼女にとって、触れられる事もキスをされる事も、全てが甘く彼女を捕らえていく事を知った。
だからドフラミンゴは彼女を自分に縛る為ならば、名を呼んでやる事もキスをくれてやる事も厭わない。
「お前から愛してもらう為にはあとどれだけくれてやればいい?」
「さぁ。どれだけかしら。何しろ私はもう、愛を囁き続ける事に飽きてしまったから」
決して返ってくる事のない想いを、あの屋敷に残してきた男に捧げすぎた。その事を思ってはふと遠くへと視線を彷徨わせた。
「フッフッフ、他の男の話なんてするんじゃねェよ。妬けるじゃねェか」
強く抱き寄せ、再びその唇を貪る。
常に毅然とした態度を崩さない彼女が、実は誰よりも貪欲にその愛を欲しがっているのをドフラミンゴは知った。
だから。
かのドンキホーテ・ドフラミンゴから愛を受けて尚、まだ足りないと強請る彼女に彼はこれからも厭う事無く愛を囁き続けると決めた。



オリジナルモブの名前が図らずして某キングオブヒーローとかぶってました
20110714