25年前。
後に海賊王と呼ばれる男、ゴール・D・ロジャーと。
数多の海賊達と船を率いる金獅子と呼ばれる男、シキ。
大きな二つの勢力がぶつかりあった戦いがあった。
大艦隊を前にして尚、ロジャーは負ける事は無かったが、その僅か三年後、彼は世界の全てを手にしたままその命を絶たれる。
ロジャーが海軍の手によって最期を迎えると言う事に憤慨したシキは、マリンフォードを強襲。
海軍はマリンフォードを半壊されると言う大きな痛手を負いながらもその身を捕らえインペルダウンへと幽閉する事に成功する。
だがシキは、たった二年でその大監獄から脱走。
己の両の足を牢に残して姿を消した。
世界政府とイースト・ブルーへの復讐を誓った男が姿を消してから18年後。
この物語は始まる。



DANGEROUS! 1




!後ろ!!」
仲が良いとは言え、任務の間は彼女の事をきちんと『隊長』と呼ぶが彼女の名を呼んだ。
己の腰に何者かの太い腕が巻きついていると気付き背後を振り返ると、目に眩しい金の髪が飛び込んでくる。
「な…!?」
そして気付いた時には彼女の足は地を離れていた。
「隊長!!」
不意を付かれて誰一人として動く事が出来なかった。
音も無くの背後に降り立ったその大男は、おもむろにその腰を掴んだ次の瞬間には全く重力を感じさせない勢いで上空へと飛び上がっている。
「ちょっと借りていくぜ!」
そんな言葉を残して男はあっと言う間にを攫って行ったのである。



任務を終えた0番隊を迎えに行く為に外輪船が出て行ったのを見送ったマルコは、特に用事もなかったのでそのまま甲板に留まって彼女の帰りを待つ事にした。
天気も良かったので甲板に出ていたオヤジと他愛の無い話をしていると、見張り台に上っていたクルーが大声を上げた。
「0番隊だ!」
そんな言葉が聞こえて白ひげもマルコも彼が指差す方向に視線を投げる。
外輪船が出て行ったのはつい先程の事だと言うのに何事かと張り詰めた空気が流れる。
迎えの船を待たずに自分達の能力で飛んで来たのは副隊長のアリダとの側近でもあるだ。
三人の女達は息を切らせながらそれでもその勢いを緩める事も無く、白ひげとマルコの前へと降り立つ。
どうした、と声をかける前にアリダが声を上げた。
隊長が!」
ピクリとマルコの肩が揺れ、白ひげの表情が険しくなる。
彼女が大男に攫われた事、あまりに突然の出来事で後を追う事も出来なかった事を告げると、その男の特徴を聞かれ。
「両の脚が剣になっていました」
「それに、頭に舵輪が…」
口にするとそれが大分妙な姿である事に気付き、本当にそんな男であっただろうかと不安になった二人の声が小さくなったが、それでも白ひげとマルコの眉は顰められたままだった。
「オヤジ、その男ってのは…」
「あァ。間違いねェ、シキの奴だな…」
大分昔に顔を合わせた男を思い出す。
随分と長い間、彼は世間に姿を見せる事は無くその存在も記憶から薄れかけていたが、マルコもその男の事は覚えている。
何人たりとも脱獄不可能と言われた大監獄インペルダウンからの脱獄を成功させ、姿を消す前に白ひげの元へとやってきた金の髪を持つ獅子のような男の事を。
「あのヤロウ…おれの娘になんの用だァ…」
考えてみても金獅子と呼ばれる男の意図など分かるはずも無く、舌打ちをした白ひげはマルコを見やる。
険しい表情を浮かべたまま腕を組んでいる息子は、だが何も言ってこない。
今すぐ彼女を助けに行きたくはあるが自分の立場を考えれば軽々しくは動けないと思っているのだろう。組んだ腕に葛藤を表すように力が入っているのが分かった。
その姿に思わず笑みが漏れる。
「マルコ、お前が行ってこい」
他の隊長が行くと思っていたのだろう。驚いたようにマルコが白ひげを見上げる。
「アイツの能力から考えるとアイツが海の上にいる可能性は低い。お前じゃなきゃ行けねえかも知れねェ」
白ひげから直々に命が降りれば躊躇う必要も無く、何かあったら一度戻れと言う言葉を背に受けながら、マルコはその身を不死鳥へと変え空へと飛び出していた。



「離せッ!」
腕ごと抱え込まれて身動きの取れないはそれでも声だけは勇ましく張り上げた。
だがもちろん、その腕の力が緩む気配もなければ解放する気もないその男はただただ上を目指して飛んで行くばかりだ。
「おいおい、大人しくしてろ。今離したら落っことしちまうだろうが」
は能力のお陰で空を駆ける事が出来たからそれでも全く構わなかったが、自分の能力の事を相手にわざわざ知らせるような真似はしない。
とりあえず今は機を待つべきだと判断して今は大人しくしておく事にした。
「ジハハハハ!いい子だベイビーちゃん。お前に見せたいものがある。白ひげ海賊団0番隊隊長、
耳元に落とされる猫撫で声に、は背筋を震わせた。
海軍ではないようだったが、彼女が白ひげの元で隊長を務める人間だと知っているこの男の事を、は何も知らない。
足元を見ればヒラヒラと風にはためく服の下、本来ならば彼女と同じ様に二本の足があるべき場所には二本の剣が見えているし、目線を上げれば獅子のような金色の髪の上にはどうやら船の舵輪としか思えないようなものが突き出ている。
見るからに怪しい風貌のこの男は何者なのだろうかと考える彼女の前に、不意に宙に浮かぶ巨大な船が現れる。
その船の帆にはでかでかとドクロのマークが描かれていて、海賊船なのだと直ぐに理解できた。
島を丸ごと一つ船にしたかのようなその巨大さに、その男が只者ではない事を悟る。
「貴方、何者なの?」
「そう言やまだ自己紹介もしてなかったなァ。おれはシキ。金獅子のシキだ。よろしく頼むぜ、ベイビーちゃん」
その名前を聞かされたところで、には何一つ彼の事は分かりはしなかった。
これだけの大きな船を(そして勢力を)持っていながら何一つ情報が無いと言うのは、こうしてこの船が常に宙にあって表舞台へは出てこなかった為なのだろう。
シキと言う名前も金獅子と言う二つ名も初めて耳にしたは、相変わらずその身の自由を奪われたまま、その船へと連れ込まれた。



最早ちょっとした屋敷とも呼べそうな程に大きな船、その一部屋に押し込められたに、シキはニヤリとした笑みを向けて言う。
「客人としてもてなそう。お前が大人しくおれの言う事を聞いていてくれれば、の話しだがな」
そうして閉められた扉に触れたが力を失って膝を着いた。
「海楼石…か」
能力者だと言う事を知られているのだと悟った彼女は、重くなった身体を扉から引き剥がし立ち上がる。
客人として、とシキは言ったが行動は制限されているのだと知ったは小さく溜息をついた。
目的は彼女だけだったのか、あの場にいた仲間達は無事なようだが、もうこの事はオヤジやマルコ達には知れたのだろうかと考える。
仲間が攫われたのを黙っている彼等では無いが、出来ればその手を煩わせる前になんとかシキの元から逃れたい。
ふと窓から外を見ると、島が見えて来ていた。
船で移動していればいずれ島が見えてくるのは当たり前の事だと思ったが、ここが遥か雲の上である事を思い出しては窓へと駆け寄る。
小さな窓から見えるのは、宙に浮かぶいくつもの島だった。
空島とはまた違った力で浮いているらしいそれを驚きの表情で見つめていると、扉が外から開かれる。
「来い、見せたいものがあると言っただろう。見せてやろう、ベイビーちゃん。おれのメルヴィユを」
再び姿を見せたシキについて、は甲板へと向かった。



20110117