この世に生れ落ちて17年とちょっと。
人生を語るにはまだ早いが。
生まれてこのかた、執着したのはたった二つ。
サッカーとそしてアイツ。



若者達よ、青き春を謳歌せよ




うだるような暑さ。
どうしてこうも教室というものは、すぐに熱気が充満するのか。
英語の授業の内容もろくに頭に入ってきやしない。
専ら、槌矢が気にしているのは、校庭で行われている体育の授業と(今日はサッカーの日だ)、今、英語の教科書を朗読させられている、女の声。
の声。
良く通る、いい声をしている。
学園祭で行われた合唱会でも、ソロを務めたくらいだ。
殆ど行動を共にしている同じサッカー部の連中と、昼休みに話した事がある。

『アイツだけはありえねぇな』

の事。
性格は豪快と言う言葉がとてもしっくりくる。
細かい事に気を悩ませる事は無く、一度決めた事はやり遂げるまで突き進む。
格好だって、豪快そのもの。
シャツのボタンは二個目まで外して、スカートも短め。
別に、色気を振りまいているワケではなくて、只単に、暑いから。
ただ、それだけ。
大雑把な性格をしているが、回りの人間の事を気遣う余裕も持ち合わせていて、誰からも好かれている。
所謂、姉御タイプの人間。

『アイツだけはありえないッスねぇ』

人となりは良いのだが彼女は、恋愛対象にはなりえないだろうと。
みんなでそう言っていた。
そう言いながら、どいつもこいつも彼女に惹かれている。
どいつもこいつもウソツキやがって。
綺麗に伸ばした長い髪。いつもアップにまとめているのを降ろした事があるのを、他の奴等は知ってるんだろうか。
知っているのが俺だけならばいいのに。
そう、思っている槌矢も、彼女に惹かれている人間の一人。



今日は一人になりたくて、一人でいたいだけの理由もあって、槌矢は昼休み一人で屋上に上がった。
買ってきたパンを食べつくしてしまうと、暇をもてあましてその場に寝転がる。
九月も半ばだというのに残暑は厳しく、遮る物の無いこの屋上では、照りつける日光が厳しすぎる。
真っ青な空を見上げていると、不意に影が落ちた。
「こんな所にいたんだ」
見上げれば。
「アンタ・・・スカートの中見えそうッスよ・・・」
槌矢の頭の方に立っている彼女のスカートの中が、ともすれば見えてしまいそうで。
「別に、短パンはいてるし」
そう言って惜しげもなく、スカートを少しだけたくし上げて見せる。
「いや、見せなくてもいいッスけど」
彼女自身も運動を得意としているせいか、引き締められたすらっとしたその脚を、俺以外に見せるんじゃないぞ・・・などと槌矢が思っていると、携帯がなった。
表示されている番号は、未来を賭けた場所。博多水産。
逸る気持ちを何故か彼女に気取られなくなくて、一つ小さく深呼吸をして通話ボタンを押した。
電話の内容は、博多水産へのサッカー採用を決定するといったような内容だった。



「ちょっと、膝かしてくれないッスか?」
一つ、目的が叶って気分がいい。
「別にいいけどさ」
がそう言ってそこに座るのを待って、槌矢は頭を彼女の膝に預ける。
「人の事、日よけにしてるでしょ」
「あらぁ・・・分かりました?」
彼女の身体を日の射してくる方にしたので、槌矢の頭は丁度その身体で作られた影の中へ。
「背中が暑いんだけど」
不満を訴える彼女を無視して、槌矢は目を閉じる。
もう少しだけ、このままいい気分に浸っていたい。
幸いにも彼女はそれ以上文句を言ってくる事もなく、膝の上に乗せられた槌矢の頭を撫でていた。
暫くして彼女が口を開く。
「随分と、機嫌よさそうね」
「さっきの電話ね・・・博多水産からなんスよ」
そう教えてやると、彼女は納得したように頷く。
「それでこの前、授業遅刻して来てたんだ。機嫌が良いって事は決まったの?」
彼女の問いに頷く事で答えてやると、はふぅんと言ったきり黙ってしまった。
「私も男だったら良かったのに」
その言葉の真意を槌矢は知る由もなかったが、彼女の口から意外な台詞が出てきたのに少しだけ驚いて目を開いてを見上げた。
「それは困るッスねぇ」
「なんで」
「俺、男を好きになる気はないんスよ」
その言葉に、そしてその意味に気付いて驚いているの頭に手を回して、顔を自分の顔に引き寄せると、軽くキスを。
「・・・私も男だったらずっと郡司と一緒にサッカーやってられるって思ったんだけど・・・」
その必要は無いみたいね。とは笑う。
「まぁ、そういう事ッスね」
槌矢も笑ってまた、彼女の膝枕で目を閉じた。
とても、気分がいい。
欲しいものがいっぺんに手に入って。



この世に生れ落ちて17年とちょっと。
人生を語るにはまだ早いが。
生まれてこのかた、執着したのはたった二つ。
サッカーとそしてアイツ。
今までも、そしてこれからも。



私の書く槌矢はキス魔(その2)