リゾット * メローネ * ギアッチョ
GIOGIO5/リゾット


彼ときたら本当に真面目で、いつ見てもパソコンに向かっているか書類とにらめっこしているか。兎に角小難しい顔をしている彼しか見た事がないものだから。
「貴方、働きすぎよ。少しは休んだら?」
そう声をかければ少しだけ困ったような顔をして、再びパソコンに目を向けてしまったから、彼女は大きく肩をすくめた。
感情の読みにくい黒い目に、滅多に崩れる事のないポーカーフェイス。そんな彼の表情を読めるようになったのは、つい最近の事だけど。
暗殺者が真面目だなんて、ロクな事じゃないわね。標的にとっては。なんて思いながらもじっとリゾットの表情を伺う。
やはり、少し疲れているように思うのは、見間違いじゃないと思う。きっと。
だから、彼女は少し強引な手段に出る事にした。
立ち上がってリゾットの隣に腰を降ろしながら、手を伸ばしてノートパソコンを閉じてしまう。
非難の表情を向ける彼をスルーしてその頭を捕らえて己の膝に乗せた。
「少しくらい休んでもバチはあたらないと思うの」
だって時計はシエスタの時間。この国じゃあ誰も彼もが休憩を取る時間なのだ。
徹夜で仕事を終えて帰ってきたホルマジオだってイルーゾォだって、さっさと報告だけ済まして眠そうな顔を隠そうともせずに奥に引っ込んでしまったではないか。
「リゾットも少し、寝たらいいわ」
そう言って小さな子供を寝かしつけるように肩をぽんぽんと叩いてやると、彼は諦めたように小さな息を吐いた。
「一時間したら起こしてくれ」
ちゃんと起きる時間を告げて瞳を閉じた彼は、やっぱり真面目だと思わず苦笑いが零れる。

あなたに、シエスタ

一緒に寝てしまうかもしれないから、一時間後に起こせなくても怒らないでね。
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GIOGIO5/メローネ


「ねぇねぇ、キミってさぁ」
メローネが甘ったるい声をかけてくる。
「うるさい」
「なぁ、そう言わずに聞いてくれよ」
「やかましい。アンタがその口を開く事を私は許可しないッ!」
私はその声を、言葉を聞きたくなくて目線を逸らしながら拒絶の言葉を吐く。
「ハハッ!何それ、イルーゾォごっこ?」
楽しそうに笑うメローネは本当に楽しいのだろう。肩が揺れている。
「オレが思うにさ、」
「許可しないってば!」
「キミって、」
「黙れ!」
「オレの事好きだろう?」
「・・・・・・・」
ニヤニヤと笑う綺麗な顔が目の前にあった。
睫毛が長いな〜なんてどうでも良い事を考えていると、その顔がどんどんドアップになって、唇同士がぶつかっていた。
ああ、キスされたんだ。なんて思っている間にメローネは唇を離している。
「なぁ、オレの事、好きだろう?」
「好きだけど、悪い!?」
繰り返された問いに私は素直に頷く事をせず、勢いつけて言い放っていた。
メローネの肩がまた揺れている。
「ベリッシモ。良くできた。素直なのは良い事だぜ」
まだ笑ったままのメローネが私の耳元で囁いた。

ツンデレってヤツは嫌いじゃない。キミに限っての事だけどな。
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GIOGIO5/ギアッチョ


身を切るような寒さの中で、コートに手を突っ込んで立ちつくしているこの時間が少しだけ好きだ。
冬は好きだ。寒いのはキライだけど、なんだか一年の中で一番静かな時期な気がするし、暖かいカフェ・コレットを好きなだけ飲める。
お気に入りのブーツを履いて、お気に入りのコートを着て、お気に入りの手袋をつけて、たくさんお洒落できる。
(夏はとてもじゃないがお洒落する気にはならない。暑くて暑くて、いっそ素っ裸にでもなってしまいたいくらいだ。メローネじゃないから決してやらないが!)
マフラーから覗く鼻が寒さで少し赤くなった頃、ようやく待ち人が現れた。
ようやくと言っても自分が早く来ただけで相手は遅刻など一秒もしていない。彼はそういうところはきっちりしているからよっぽどの事がなければ待ち合わせに遅れたりはしない。
「待たせたか?」
赤く凍えた鼻先に気付いたのだろう、彼が尋ねてくる。
「ううん、そんなに待ってない」
そう応えるとすぐさま「ウソつけ」と返されてしまった。
「ほらよ」
ぐい、と押し付けられたのはホッカイロに暖かいコーヒー。すぐそこのバールでテイクアウトしてきたエスプレッソだ。
「でも、これギアッチョが飲もうと思ってたんじゃないの?」
きっと私がこんなに早く来るなんて思っていなかったから、待っている間にこれで身体を温めているつもりで買ったものに違いなかった。
「オレはいいからオメーが飲め」
断るなんていわせねーとばかりにカップを押し付けてきたギアッチョ。
「はんぶんこ、しよ?」
そう言えばマフラーから覗くギアッチョの耳が微かに赤くなる。きっと、寒さのせいではない。

寒がりな彼と、暖かいコーヒーを分け合える冬が、好き。


うだるような暑さに体力がついていかず、大きく出た欠伸を押し殺す事もせず、彼女はそのまま隣に座っていたギアッチョ目掛けて体を横にした。
怒られる事を覚悟してその膝に頭を乗せてみれば、予想通りに大きな舌打ちが聞こえる。
だが、予想外にも払いのけられる事はなく、それどころか手のひらが額に乗せられた。
彼の手は、冷たくて気持ちいい。
「ギアッチョの手、冷たくて気持ちいい」
ふふ、と笑みを零すともう一度、舌打ちの音。
「スタンドは使ってねーぞ」
「じゃあ、ギアッチョは心が暖かいのね」
そう言ってみれば、ハァ!?と盛大に呆れたような声が聞こえた。
「だって、手が冷たい人は心が暖かいって言うじゃない」
「ハッ!暗殺者が心が暖かいワケねーだろうが!」
凶悪な犯罪者でも気の狂った殺人狂でも手が冷たければ心が暖かいと言うのか。心の暖かい人間が人を殺したりするのか。と、いつものようにブツブツと文句を言い始めるギアッチョに、彼女はまた小さく笑みを零した。
そうは言っても、ギアッチョは彼女に膝を貸してくれているわけで。
この暑さで膝は蒸れてしまうかも知れないのに。彼女の頭が触れている彼の太腿はもう、温まってきてしまっていると言うのに。
「でも、やっぱりギアッチョ優しいもの・・・」
彼の文句は止まらないが、髪を撫でる優しい手に、眠りを誘われて。

涼しい、シエスタ

お前にだけだ、と小さな声を聞きながら眠りに落ちた。
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