身を切るような寒さの中で、コートに手を突っ込んで立ちつくしているこの時間が少しだけ好きだ。
冬は好きだ。寒いのはキライだけど、なんだか一年の中で一番静かな時期な気がするし、暖かいカフェ・コレットを好きなだけ飲める。
お気に入りのブーツを履いて、お気に入りのコートを着て、お気に入りの手袋をつけて、たくさんお洒落できる。
(夏はとてもじゃないがお洒落する気にはならない。暑くて暑くて、いっそ素っ裸にでもなってしまいたいくらいだ。メローネじゃないから決してやらないが!)
マフラーから覗く鼻が寒さで少し赤くなった頃、ようやく待ち人が現れた。
ようやくと言っても自分が早く来ただけで相手は遅刻など一秒もしていない。彼はそういうところはきっちりしているからよっぽどの事がなければ待ち合わせに遅れたりはしない。
「待たせたか?」
赤く凍えた鼻先に気付いたのだろう、彼が尋ねてくる。
「ううん、そんなに待ってない」
そう応えるとすぐさま「ウソつけ」と返されてしまった。
「ほらよ」
ぐい、と押し付けられたのはホッカイロに暖かいコーヒー。すぐそこのバールでテイクアウトしてきたエスプレッソだ。
「でも、これギアッチョが飲もうと思ってたんじゃないの?」
きっと私がこんなに早く来るなんて思っていなかったから、待っている間にこれで身体を温めているつもりで買ったものに違いなかった。
「オレはいいからオメーが飲め」
断るなんていわせねーとばかりにカップを押し付けてきたギアッチョ。
「はんぶんこ、しよ?」
そう言えばマフラーから覗くギアッチョの耳が微かに赤くなる。きっと、寒さのせいではない。
寒がりな彼と、暖かいコーヒーを分け合える冬が、好き。
うだるような暑さに体力がついていかず、大きく出た欠伸を押し殺す事もせず、彼女はそのまま隣に座っていたギアッチョ目掛けて体を横にした。
怒られる事を覚悟してその膝に頭を乗せてみれば、予想通りに大きな舌打ちが聞こえる。
だが、予想外にも払いのけられる事はなく、それどころか手のひらが額に乗せられた。
彼の手は、冷たくて気持ちいい。
「ギアッチョの手、冷たくて気持ちいい」
ふふ、と笑みを零すともう一度、舌打ちの音。
「スタンドは使ってねーぞ」
「じゃあ、ギアッチョは心が暖かいのね」
そう言ってみれば、ハァ!?と盛大に呆れたような声が聞こえた。
「だって、手が冷たい人は心が暖かいって言うじゃない」
「ハッ!暗殺者が心が暖かいワケねーだろうが!」
凶悪な犯罪者でも気の狂った殺人狂でも手が冷たければ心が暖かいと言うのか。心の暖かい人間が人を殺したりするのか。と、いつものようにブツブツと文句を言い始めるギアッチョに、彼女はまた小さく笑みを零した。
そうは言っても、ギアッチョは彼女に膝を貸してくれているわけで。
この暑さで膝は蒸れてしまうかも知れないのに。彼女の頭が触れている彼の太腿はもう、温まってきてしまっていると言うのに。
「でも、やっぱりギアッチョ優しいもの・・・」
彼の文句は止まらないが、髪を撫でる優しい手に、眠りを誘われて。
涼しい、シエスタ
お前にだけだ、と小さな声を聞きながら眠りに落ちた。