こう見えてもサッチは白ひげの下で一隊を率いる隊長と言う立場にあり、それなりに忙しい。
今日も一日よく働いた、と部屋に戻ってきてみればベッドにナースの姿があり、一瞬間違えて医務室にやってきてしまったのかと思わず部屋の中を確認してしまった。
だがやはりそこは自分の部屋であり、間違っても医務室なんかではない。
「…何、やってるんですか?」
自分のベッドに腰掛けて悠然と微笑んでいる女に問いかける口調が思わず変なものになってしまったのは仕方がない事だろう。
それほどまでに驚いてしまったのだ。
サッチともあろう男が。
自分の女がナースの服を着てベッドに腰掛けていると言うだけで。
意外と疲れているのかも知れない。と思いながら部屋へと足を踏み入れ、まじまじと彼女を眺めてしまう。
今でこそ彼女は戦闘員としてこの船にいるが元々はナースだった女で、サッチもその姿を知らないわけではない。
けれど彼女がその姿をするのは本当に久し振りの事で、もっと言ってしまえばナースを辞めて以来ナース服に身を包んだ事などなかった筈だ。
サッチとしてはとてもとてもそそられる状況であった筈なのに、驚きの方が勝ってしまったのだ。やはり自分は疲れている。
「今日も一日お疲れ様」
そんなサッチの驚きを知ってか知らずか、にんまりと笑みを浮かべた彼女がポンポンとベッドを叩く。
座れ、と言う事か。
誘われればもちろん、サッチに拒む理由も無かったから大人しくそこに腰掛ければ、何故か彼女はサッチと僅かに距離を取った。
誘っておいてそれはないだろうと思っていると、おもむろに伸びてきた腕が首に絡み付き引き倒される。
何だ何だと思っていると頭が何やら柔らかいものに触れた。
ああ、膝枕してくれてんのか。と思うと同時に身も心も緩やかに和らいで行く。
惚れた女が只、膝枕をしてくれていると言うだけで(ナース服と言うオプションまでついているけども)、一日の疲れも吹っ飛んでしまうようだった。
「まだ持ってたのか、その服」
遠慮なく頭の下に伸びる魅惑的な太腿に指を滑らせるが咎められもしないのでそのまま柔らかな肌を撫でながら尋ねる。
「皆持ってるわよ」
副隊長やイゾウの女であるあの女も、元ナースだった女達はなんだかんだで今でもナース服を取っておいてあると聞かされたが、他の女達がそれをこんな風に使用しているかなんて考えたくも無かった(特にイゾウの女がそれを未だに使っているかなんて考えたくもない)。
「たまにはいいでしょう?こんなのも」
ナースは皆の癒しですものね、と笑った彼女の手が優しくサッチの頭を撫でているのが心地良い。
更には「最近疲れているみたいだったから」なんて労わりの言葉を掛けられてしまえば、もうサッチの疲れなどはどこかへ吹っ飛んで行ってしまった。
疲れを忘れてしまえば代わりに芽生えるのは悪戯心とほんの少しの欲。
自分の女がこんな魅惑的な格好でベッドの上にいるのだから、それはもう。
男なら据え膳はちゃんと頂かないと!
「あらあら」
その姿を見つけて思わず、声と共に笑みが零れた。
朝からバタバタと忙しそうに走り回っていた彼の、その姿が昼過ぎになって見えなくなったので探しに来てみれば、甲板に積まれた木箱の向こう側で隠れるように体を丸めて眠っている。
なんだかんだ言っても、サッチは面倒見もいいし、隊長としての仕事をサボっているわけでもないから(時々こうして『休んで』いる事はあるけれど)、たまにはこのくらい見逃してあげたい。
彼を起こしてしまわないように静かに隣に腰を降ろすと、なにやらむにゃむにゃと寝言を言っている。
「他の女の夢なんて見ていたらただじゃおかないわよ」
若干物騒な言葉を零しながらサッチの頭に手を伸ばし、何度か寝返りをうった為だろうか、乱れ初めているリーゼントを撫で付けてやる。
春島が近いせいか気候も良く、お日様の光を浴びた甲板は適度に温かくて心地良さそうだ。
だが太陽もだいぶ高いところに昇ってきたせいで、木箱の陰では足りなくなってきたのか、再び彼女の前で寝返りをうったサッチが眩しそうに顔を顰めた。
まだ起こしてしまうのはかわいそうかと、彼女は場所を移動して、彼の顔に日陰を作ってやる。
「本当にいい天気ね。お昼寝にはもってこいだわ」
彼が他の女の名前でも呟くところを見ていてやろうかと思ったのに、気持ち良さそうに眠っているサッチを見ていたらなんだかこちらまで眠くなってきてしまった。
「起きたらお茶でも淹れてあげるわね」
疲れている隊長の為にお茶を淹れてあげるのも悪くないと思いながら、彼女は背後の木箱に体重を預けた。
陽気な気候のお陰で直ぐに瞼が重くなってくる。
あなたと、シエスタ
夢でも私を見ていて欲しいわ。